労働組合に関する初期対応について①【労組法上の労働者性と近時の裁判例等(コンビニオーナー・ギグワーカー)の紹介】
執筆 | 大山 洸来 |
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業務分野 | |
テーマ | 労働組合法 |
執筆日 | 2023年5月31日 |
第1 はじめに
1 現在の労働組合の状況について
令和4年6月30日時点[1]での単一労働組合の労働組合数は2万3046組合、労働組合員数は999万2000人となっており、雇用者数6048万人との比率でいえば、推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合を指します。)が16.5%となっています。
推定組織率は、昭和40年代では35%~40%程度であったものの、その後徐々に右肩下がりの状態であり、現状の数値となっています。労働組合員数としては、雇用者数が拡大していったこともあり、そのピークは平成6年頃(1269万8847人)であったものの、その後平成26年ごろ(977万人)まで減少し、その後1000万人台まで回復したものの、上記のとおり令和4年度は再び1000万人を割る状態となっています。
このような労働組合員数及び推定組織率の減少は、そもそも組合組織率が低いサービス業の拡大や非正規労働者の増加、若年層を中心とした組合離れ意識の広がり等が上げられておりますが、特に下記のとおり従来型の労働組合は企業別に所属する正社員によって構成されていたところ、非正規労働者の増加への対応不足が現在までの勢力減退を生じさせている、と論じられています[2]。
2 近年における労働組合の特徴について
従来、日本型の労働組合の特徴としては、欧米諸国の主流である職業別組合や産業別組合ではなく、各企業の正社員を中心とする企業別組合が主流である点が上げられます。そして、この企業別組合が結集した連合体(全国単産)として、産業別の連合組合(UAゼンセン(流通・サービス業等)や自治労(地方自治体)、自動車総連(自動車産業)等)が組織され、こうした連合組合が加入する全国的な組合として、日本労働組合総連合会(連合)や全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡協議会(全労協)等が存在します。こうした企業別組合は、令和4年時点で、民間企業の労働組合員数の9割近くを占めています。
しかし、近年では、こうした企業別組合だけではなく、企業や産業に関わりなく組織化された労働組合(一般組合と呼ばれます。)として、全国的な規模の一般労働組合や、派遣社員やパートタイム労働者等が個人加入する小規模な地域一般労組(コミュニティ・ユニオンと呼ばれます。)といった合同労組が有力な存在として台頭しています。その存在感は、平成29年度~令和3年度に中央労働委員会において申し立てられた事件のうち、約7割近くの申し立てがこの合同労組によってなされていることからもうかがわれます。特に近年では、セブン-イレブン・ジャパンのコンビニ加盟店主に関する司法判断(東京地判令和4年6月6日)や、ウーバーイーツの配達員に関する都労委の判断(東京都労委令和4年11月25日)など、いわゆる「雇用契約を締結した従業員」ではなく業務委託契約等の契約形態であっても、労働組合を結成して団体交渉等を申し込んでくる事案が増えています。
そのため、本稿では、こうした「雇用契約を締結した従業員」以外の者が結成した労働組合からの団体交渉の要求等に対して、どのように対処するべきなのかをご紹介します。
第2 団体交渉を申し入れられた際の対処
1 労働組合法上の問題点について
(1)労働組合法の概要
ア 労働組合法の全体像
労働問題に関する法律としては、労働基準法や労働契約法等個々の使用者と労働者間の契約内容を規律する法律がありますが、一方で労働組合に関する労働組合法(以下「労組法」といいます。)も存在しています。
そして、労働組合法上、労働組合は「労働者」が主体となって労働条件の改善等を目的として結成された団体(労組法2条)とされています。この「労働者」の定義として、労組法3条によれば、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とされています。
こうして「労働者」によって結成された労働組合は、使用者に対して団体交渉(一般的には、労働組合が使用者と労働者の待遇や労使関係のルールについて合意することを主たる目的として交渉すること、とされています[3]。)を申し入れることができ(憲法28条)、使用者はこの交渉を行う義務があります(なお、労働組合の要求を受け入れる義務があるわけではない点に注意が必要です。)。このような交渉を経て、使用者と労働組合が合意することができれば、「労働協約」として強い効力を有します(労組法14~18条)。一方で、合意に達しない場合、労働組合としては、争議行為(ストライキなど)を行う(憲法28条)ことで使用者に圧力をかけ、その合意締結や労働環境の改善等を迫ることができます。
こうした動きに対して、使用者側も何らかの対抗手段を取りたくなりますが、そこで注意しなければならないのが、以下で説明する「不当労働行為」(労組法7条)です。
イ 不当労働行為について
不当労働行為とは、労組法が労働組合を保護するため、労組法7条において使用者に禁止している行為のことであり、①不利益取扱い(労働組合に加入したことを理由に解雇する、契約を更新しない、業務をさせない・過大な業務をさせるなど)、②団交拒否(正当な理由なく団体交渉を拒否する、誠実な団体交渉を行わないなど)、③支配介入(使用者による組合への威嚇的言動、脱退勧誘など)の3点が規定されています。労働組合が不当労働行為を受けた場合、その労働組合は、各都道府県に設置されている労働委員会へ救済(そうした行為をやめるよう求めるなど)を申し立てることができ(労組法27条1項)、その判断に不服があれば(労働組合及び使用者双方)、中央労働委員会へ(労組法27条の15)、中央労働委員会の判断に不服があれば裁判所へ提訴することができます(労組法27条の19)。
使用者としては、特に団体交渉を申し込まれた場合、この②団交拒否にならないよう方針を決定しなければなりません。
(2)労組法上の労働者について
ア 団体交渉への申入れについて
団体交渉の申入れは、特に上記第1の2の企業別組合以外の労働組合(コミュニティ・ユニオンなど)の場合、ある日突然「貴社と契約関係にある●●氏が、●●ユニオン(●●労働組合)に加入したため、ご通知申し上げます。」「以下の要望事項について、直ちに団体交渉を開催されますよう要求いたします。」等と記載されたFAXが送付されることが多いです。
その場合、使用者としては、「そもそも団体交渉を受けるべきか否か」を判断しなければなりません。そして、団体交渉を受けるべきか否かは、主に、①労働組合に加入した者が「労組法上の労働者」(労組法3条)に該当するか否か、②自社が「使用者」(労組法7条)に該当するか否か、③団体交渉の要求事項が義務的団交事項であるか否か、の3点を検討する必要があります。
もし①「労働者」に該当しない場合や、②「使用者」に該当しない場合、③義務的団交事項ではない場合(任意的団交事項)のであれば、その団体交渉を拒否しても、不当労働行為である「団交拒否」にはならないため、法律上団体交渉を受ける義務はありませんが、「労働者」「使用者」に該当し、かつ義務的団交事項に該当するのであれば、団体交渉を受ける義務があるため、拒否すれば「団交拒否」に該当してしまいます。
そのため、団体交渉の申入れを受けた使用者は、短い時間で当該申し入れを行ってきた労働組合に所属する者が、労組法上の労働者であるか否か、自社が労組法上の使用者に該当するか否か、そして団体交渉の要求事項が義務的団交事項であるかを判断しなければなりません。
その際には、もちろんどのような契約形態であるか(雇用契約・業務委託契約・請負契約など)が重要になってきますが、以下のとおりその契約の具体的な内容や運用実態も検討しなければならない点に注意が必要です。なお、特に雇用契約以外の者(業務委託契約等)から団体交渉を申し入れられた場合は、労組法上の「労働者」だけではなく、労基法上の「労働者」についても別途検討を要します(労組法上の労働者であるとしても、労基法上の労働者には該当しない例があります。)。
イ 判例等の見解
労組法上の労働者性については、新国立劇場運営財団事件(出演基本契約を締結したオペラ合唱団員について肯定)[4]やINAXメンテナンス事件(住宅設備機器の修理補修業務を委託されていた技術者について肯定)[5]、ビクター事件(音響機器の修理補修業務を委託されていた個人代行店について肯定)[6]といった3つの最高裁判所の判決において示された見解が実務上重要になってきます。
これら3つの最高裁判決や通説的見解[7]などを踏まえると、労組法上の労働者性を検討する際に重視されるべき点は、①事業組織への組み入れ(社内における立ち位置等)、②契約内容の一方的決定(定型的な契約書のみであるか否か、交渉の余地があるかなど)、③報酬の労務対価性(出来高払いや日当制等)を中心的な要素としつつ、④業務依頼の諾否の自由(依頼を拒否できるか否か、拒否した場合に不利益が生じるか等)、⑤業務遂行への指揮監督・時間的場所的拘束(会社から、業務時間や場所の指定、制服等の指定があるかなど)といった事情も補足的に検討し、労働者性を肯定できそうな場合には、なお⑥事業者性の実態を有するか否か(再委託や兼業が可能か否か、自ら確定申告を行っているかなど)を「特段の事情」として例外的に労働者性を否定できるか検討する、という流れになります(ただし、上記の新国立劇場運営財団事件についての最判平成23年4月12日に関する調査官解説[8]では、上記①~⑤についての位置づけについて、どの事情が中心的で、どの事情が補足的であるかは個別的な事案によって判断されるべきであるとされている点は、今後の裁判例を検討するにあたり重要な示唆となります。)。
こうした判例の存在を踏まえつつ、その後の裁判例においても、基本的な枠組みとして上記の枠組みを踏襲する形で判断がなされています(バイクでのメッセンジャーについて労組法上の労働者性を肯定した事案(ソクハイ事件)[9]や、NHKの放送受信者との取次・集金業務等の委託を受けていた個人スタッフについて労組法上の労働者性を肯定した事案[10]等)。
ウ 近年の重要事案の解説
上記第1の2のように、従来の企業別組合が中心的な時代では、労働組合は当該企業の正社員が中心となって結成しており、当該正社員は企業と雇用契約を締結しているため、「労組法上の労働者」性はあまり問題になりませんでした。
しかし近年では、上記第1の2のとおりいわゆる雇用契約を締結していない者についても、合同労組に加入するなどして団体交渉を申し入れてくる事案が多数生じています。その中で、近時司法判断等がなされた重要な事件について、解説します。
(ア)セブン-イレブン・ジャパンのコンビニ加盟店主について
a 事案の概要
東京地方裁判所令和4年6月6日判決(以下「本判決」といいます。)は、株式会社セブン-イレブン・ジャパン(以下「セブン-イレブン社」といいます。)と加盟店基本契約(フランチャイズ契約)を締結して店舗を経営するコンビニ加盟店主(フランチャイジー)(以下「加盟者」といいます。)らが、コンビニ加盟店ユニオン(以下「コンビニユニオン」といいます。)に加入し、セブン-イレブン社に対して団体交渉を申し入れたものの、セブン-イレブン社は団体交渉を拒否したため、不当労働行為(団交拒否)にあたるとして岡山県労働委員会に対して救済命令を申し立てた事件に関する判決です。
岡山県労働委員会は、この申立てを認めて救済命令を発しましたが、セブン-イレブン社が中央労働委員会に対して不服申し立てを行ったところ、中央労働委員会は、コンビニ加盟店主は労組法上の「労働者」に該当しないとして、岡山県労働委員会による救済命令を取り消し、救済申し立てを棄却する判断を行いました。この中央労働委員会の判断に不服があるコンビニユニオンが、東京地裁に対してその判断の取消しを求めたものの、本判決は、中央労働委員会の判断を取り消すべき理由がないとして、コンビニユニオンの請求を棄却しました(なお、本判決に対してコンビニユニオン側が控訴を申し立てていましたが、令和4年12月21日、東京高等裁判所は、本判決を支持して控訴を棄却する判決を言い渡しました。)。
b 裁判所の判断
本判決では、まずフランチャイズ契約の契約内容や運用実態を踏まえて、加盟者自身が資金調達や管理、従業員の募集・採用及び労働条件の決定、商品の仕入れ等に関する販売戦略の決定といった、コンビニ加盟店の経営の基本方針や重要事項の決定を行う立場にあり、加盟者はその経営判断に基づいて事業者としてこれらを行うところ、一方で、加盟者自身が商品の販売や接客、店舗の清掃等の店舗運営業務について行うか、従業員に実施させるかについては、加盟者が決定することができ、実態としても加盟者自身が長時間稼働することを余儀なくされているものでもないため、加盟者自身が稼働することは加盟店基本契約上不可欠の要素ではないとしています。
こうしたコンビニ加盟店主の契約内容等を前提とすると、①加盟者は、独立した事業者として契約上・実態として位置づけられており、具体的な労務提供を義務付けられている立場ではなく(④諾否の自由×)、セブン-イレブン社の事業組織に組み入れられているとも認められず(①事業組織への組み入れ×)、②加盟者がセブン-イレブン社から得ていた報酬は、加盟者が加盟店における商品の販売やサービス提供の対価として顧客から得た収益を獲得しているものであり、加盟者が契約上の義務を履行したことへの対価であるとは評価できない(③報酬の労務対価性×)、③加盟店基本契約自体は統一的な内容を定型化したものであり、個別的に変更されたこともないため、加盟店の経営の在り方に一定の制約を課すものではあるものの、加盟者が、加盟店の経営を、自己の労働力と従業員の労働力のそれぞれをどのような割合・態様で供給するのかなどは加盟者の判断であるため、加盟者の労務提供のあり方が一方的・定型的に定められたものとは言えない(②契約内容の一方的決定×)、④契約上、加盟者は、年中無休・24時間営業を義務付けられており、従わない場合は不利益が生じるため、事業活動に一定の制約を受けているものの、③同様経営の在り方に一定の成約があるものの、加盟者自身の店舗での稼働等は自らが決定できており、また加盟店の場所も自らが選択できること、労務提供については加盟者自身の判断によって決定していることから、セブン-イレブン社が加盟者の労務提供について指揮命令等を行っているとは言えない(⑤時間的場所的拘束・指揮命令の有無×)ことから、労組法上の労働者に該当しないと判断しました。また⑤上記のとおり加盟者自身が事業者として経営判断等を行っている点を踏まえると、独立した事業者の実体を有しているともされています(⑥独立した事業者性〇)。
以上の判断を踏まえて、本判決は、加盟者は労組法上の労働者に該当しないとして、コンビニユニオンの請求を棄却しました。
なお、高等裁判所の判決においても、上記の本判決を一部修正等しつつも、その大部分を引用したうえで本判決と同様の判断を示し、コンビニユニオン側の控訴を棄却しました。
c 本判決の評価
本判決の特徴は、やはりb前段の判断にあると思われます。本判決では、コンビニ経営において欠かせない資金調達や従業員の管理、仕入れ等といったコンビニ加盟店の経営方針や重要事項の決定に関する業務(経営判断業務)と、接客や清掃といった業務(店舗運営業務)を区別し、加盟店基本契約上、前者の経営判断事項については一定程度の制約があるものの、後者の店舗運営業務については加盟者の裁量に委ねられていることを認定しており、その後の各要素の検討においてもその姿勢が強くうかがわれます。もっとも、基本的な判断枠組み等は上記イの最高裁判決と同じ流れのものと評価できます。
本判決については、高等裁判所も控訴を棄却する判決を言い渡しており、最高裁判所の判断が待たれる状況ではありますが、コンビニ経営に限らず、多くのフランチャイズ契約において存在する経営判断等の観点と店舗の具体的な運営等の観点を区別し、それぞれの観点について、契約上の義務として存在するかどうか、実態の運用としてどうなっているかなどの検討を行う手法として、参考になる事案であると思われます(なお、ファミリーマートの加盟者に関しても、平成27年3月17日の東京都労働委員会による救済命令では、労組法上の労働者性を肯定しましたが、平成31年2月6日の中央労働委員会はこれを破棄して救済命令申立てを棄却しており、本判決と同様の結論となっております。)[11]。
(イ)ウーバーイーツ配達員について
a 事案の概要
上記(ア)のコンビニ加盟店主の事案とは異なり、フリーランスの一種であるギグワーカー(単発の業務を行う個人事業主)に含まれるウーバーイーツの配達員についての東京都労働委員会令和4年11月25日付の命令(以下「本命令」といいます。)についても紹介いたします。
本命令の事案としては、ウーバーイーツ事業を運営するUber Eats Japan合同会社及び同社から委託を受けて配達員の登録手続等を行っているUber Japan株式会社(以下併せて「ウーバー社」といいます。)に対して、配達員らがウーバーイーツユニオン(以下「ウーバーユニオン」といいます。)を結成し、団体交渉を要求したものの、ウーバー社は配達員が労組法上の労働者ではないとして団体交渉を拒否したため、東京都労働委員会に対して救済申し立てを行った事案です。
本命令では、配達員はウーバー社との関係において、労組法上の労働者に該当するとしたうえで、ウーバー社はその労働者が所属する労働組合であるウーバーユニオンからの団体交渉の申入れを受ける義務があるにもかかわらずこれを拒否したとして、救済命令を発しました(なお、ウーバー社は、この命令に対して不服があるとして、中央労働委員会へ不服申し立てを行っています。)。
b 労働委員会の判断
本命令では、前提としてウーバーイーツ事業はあくまで飲食店と注文者と配達員の3者をつなぐマッチングサービスであり、個別の配達に関する取引関係は飲食店と配達員間で生じるため、ウーバー社に対して直接労務を提供する立場ではないものの、ウーバー社は配達員の配達業務に対して、禁止事項を設けて違反者にはアカウント停止措置や契約解除を行うなどしており、配達料も飲食店が配達員へ支払う形ではあるものの、ウーバー社が代理権限に基づいて注文者から受領し、手数料を控除して配達員へ支払っている関係に立っているため、ウーバー社との関係において完全に労組法上の労働者性が排斥されるとは言えないとしたうえで、上記イの①~⑥の各要件を検討して労組法上の労働者該当性を検討すべき、との枠組みを明示しています。
こうした枠組みを踏まえつつ、①ウーバーイーツ事業において、注文者の注文のうち99%の注文が飲食店から配達員が飲食物を注文者へ届ける形態のものであり、この事業を実施するには多数の配達員が必要であるため、評価制度やアカウント停止措置等により配達員の行動を統制し、配達委業務の円滑かつ安定的な遂行を維持するとともに、ウーバーイーツの配達用バッグの利用や配達員が配達時に「ウーバーイーツ」であると名乗る点、一定のインセンティブ(「クエスト」と呼ばれる目標と達成時の報酬制度)を提供して専属的な配達員を一定数確保しようとしている点を踏まえると、ウーバーイーツ事業は配達員なくしては機能せず、ウーバー社の事業遂行に不可欠な労働力として確保されていたといえる(①事業組織への組み入れ〇)、②契約書はウーバー社側が用意した定型的な様式であり、個別の交渉は予定されておらず、また実際に交渉されたこともないし、これまでウーバー社側が配送料を変更する際も事前協議等はなくメールで通知されるのみであったことを踏まえると、契約内容についてウーバー社が一方的・定型的に決定していたといえる(②契約内容の一方的決定〇)、③配達員へ支払われる報酬は、契約上飲食店が支払うものとなっているが、実態としては、飲食店に代わってウーバー社が注文者から代金を受領して配達員へ支払っており、その金額も基本的にウーバー社が設定した推奨価格のみとなっている点、一定の場合にはウーバー社側が報酬の支払を取り消す権利を留保しており、一方、注文者が不在で配達できなかった場合等でも配達員に対して一定の配達料を支払っている点、配達料の基本料金も、配達業務における距離に応じて算定されている点、インセンティブも実質的には繁忙手当や奨励金に類するものである点からすれば、配達料は配達員が行う労務提供への対価として支払われるものであるといえる(③報酬の労務対価性〇)、④配達員は、配達用アプリをオンラインにするか否か、配達リクエストに対して応じるか否かは契約上・実態上も自由であり、応じなかったことによる不利益を受けるものではないものの、配達員側の認識として一定以上リクエストを拒否するとリクエストが減るとの認識を有していた点、アプリ上配達員は配達先を見ることができない期間があったことや、クエストを設定している場合は事実上依頼を拒否しにくい点等を踏まえると、配達リクエストに応じるべき関係があったとまでは言えないものの、拒否しづらい状況に置かれるような事情もうかがわれる(④諾否の自由△)、⑤上記④のとおり、配達員にはアプリをオンラインにするか否か、配達リクエストを受けるか否かについて基本的には自由であり、時間的場所的拘束は認められないが、リクエスト受注後の配達業務に関しては、ウーバー社が作成した配達パートナーガイドに基づき業務を遂行する必要があり、適切に遂行しなければ契約解除の可能性も示唆され、また飲食店や注文者による評価制度やアカウント停止措置等によりガイド記載の手順を遵守しなければならない状況に置かれており、配送経路等についてもアプリ上で推奨経路が表示され、配送料も基本的に実際の距離ではなく推奨距離で産出されることがある点、ウーバー社は配達員の位置情報をGPSによって把握している点等を踏まえると、時間的場所的拘束を受けているものではないが、広い意味でのウーバー社の指揮監督下に置かれて配達業務を遂行していたものといえる(⑤時間的場所的拘束、指揮監督の有無△)、そして、⑥配達員は独自に飲食店や注文者へ接触することはできず、自己の才覚で利得を得る機会はほとんどなく、配送業務における損益もウーバー社が負担しており、配達員が自らの業務としてリスクを負担しているものではなく、他者への再委託は禁止されていることから、バイクや自転車といった配達手段を配達員自ら用意している点を踏まえても、顕著な事業者性があるとは言えない(独立した事業者×)。
以上の判断を踏まえて、本命令は、配達員は労組法上の労働者に該当するとして、ウーバー社がそうした配達員の結成したウーバーユニオンによる団体交渉の申入れを拒否したことは、不当労働行為に該当するとして、救済命令(ウーバー社は団体交渉に誠実に応じなければならない、不当労働行為を認定された旨の書面の掲示)を発しました。
c 本命令の評価
本命令は、その大枠自体は最高裁判決を踏まえた要素を検討しているものの、上記(ア)のセブンイレブン社についての本判決とは正反対の事案であると考えられます。
すなわち、セブンイレブン社についての本判決においては、コンビニ経営において欠かせない資金調達や従業員の管理、仕入れ等といったコンビニ加盟店の経営方針や重要事項の決定に関する業務(経営判断業務)と、接客や清掃といった業務(店舗運営業務)を区別し、加盟店基本契約や実際の運用上、経営判断業務について一定の制約があるものの、店舗運営業務については加盟者の自由裁量にゆだねられている点を踏まえて、労務提供については独立した事業者として実施しているため、労組法上の労働者性を否定しています。
一方で、ウーバー社についての本命令では、配達用アプリを起動し、配達リクエストを受けるか否かについては、基本的に配達員の自由である(b④)ため、どのような業務を受注するか否かという(個人事業主としての)経営判断業務については配達員の自由な裁量にゆだねられているものの、一旦業務を受注すると、その業務における労務の提供(コンビニ経営における店舗運営業務)については、マニュアルや評価制度等による統制を受けるためその裁量は乏しい(b⑤)という考え方が可能であり、本命令を見る限り、この④⑤をどう評価するのかが重要な判断の分岐点であるといえそうです。
本命令は、後者の労務提供に関する契約内容や実態、制約等を中心に検討していったものと思われ、その意味では、2つの観点を区別して特に労務提供についての契約内容等を検討したセブンイレブン社の本判決と大きな考え方は同様といえそうです。もっとも、その場合に、前者の経営判断業務(ウーバー社に関していえば、いつ、どこで配達業務を実施するのかを選択すること)について配達員には自由裁量がある点をどのように評価するのかが難しいところであり、ウーバー社のようなギグワーカーの労組法上の労働者性について重要な論点であるため、今後の中央労働委員会や裁判所での判断が待たれるところです[12]。
エ 小括
労組法上の労働者性の検討にあたっては、上記の本判決や本命令での検討のとおり、契約書の記載のみならず、その契約が実際にはどのように運用されているのかという実体面も重要になってきます。
そのため、会社としては、そもそも団体交渉を申し込まれる以前から、日々委託先との業務委託契約書をチェックするとともに、実際にはその契約書どおりに運用されているかどうか、その運用が労組法上の労働者(+労基法上の労働者)へ影響を及ぼすものになっていないか確認していくことが重要になってきますが、こうした作業は上記のように判例や裁判例、実務上の運用等を踏まえてなされなければならず、個々の契約書の内容や運用等によって重要なポイントも変わってきます。また契約書に重大な問題があり改定しなければならなかったり、従来の運用を変える必要がある場合にも、適切な手続を経る必要があります。
そのため、こうした日々の対応や団交申入れを受けた際の緊急時の対応等においては、経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めいたします。
次回のコラムでは、「労組法上の労働者」に引き続き、団体交渉を受けるか否かの判断において重要となる「労組法上の使用者」と「義務的団交事項」について解説していきます。
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[2] 水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会、第2版、2021年)1041頁参照
[3] 菅野和夫『労働法』(弘文堂、第12版、2021年)881頁参照
[4] 最高裁判所平成23年4月12日第三小法廷判決・民集65巻3号943頁
[5] 最高裁判所平成23年4月12日第三小法廷判決・集民236号327頁
[6] 最高裁判所平成24年2月21日第三小法廷判決・民集66巻3号955頁
[7] 前注2・水町57頁以下、前注3・菅野832頁以下。なお、行政機関による報告書としては、厚生労働省労使関係法研究会の平成23年7月25日発表報告書「労働組合法上の労働者性の判断基準について」や、内閣官房・公正取引員会・中小企業庁・厚生労働省の令和3年3月26日発表の「フリーランスとして安心して働ける環境をセイブするためのガイドライン」参照
[8] 最高裁判所判例解説民事篇平成23年度(上)・235頁、254頁参照
[9] 東京地方裁判所平成24年11月15日判決・判タ1404号126頁
[10] 東京高等裁判所平成30年1月25日判決・判時2383号58頁
[11] 本判決へのコメントとして、労働判例1271号5頁以下、労働経済判例速報73巻24号、本判決の控訴審判決へのコメントとして、労働判例1283号5頁以下参照
[12] 本命令に対する評釈として、労働判例1280号5頁以下、同1281号88頁以下参照
※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。コラム内の意見等については執筆者個人の見解によるものであり、当事務所を代表しての見解ではありません。個別具体的な問題については、必ず弁護士にご相談ください。