「給与ファクタリング」が貸金業法2条1項、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下、出資法)5条3項にいう「貸付け」に該当するとした最高裁決定(刑事/令和5年2月20日)の概要
執筆 | 磯村 保 |
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業務分野 | |
テーマ | 判例解説 |
執筆日 | 2023年6月5日 |
<事実の概要>
被告人Yは、「給料ファクタリング」と称して、顧客からその使用者に対する賃金債権の一部を、額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付していた。
契約上、使用者の支払不能のリスクはYが負担するものとされており、また、希望する顧客は、買戻し日に額面額で買い戻すことが可能であった。
Yは、顧客が買戻しを希望しない場合には、顧客からの委任に基づき使用者に債権譲渡の通知をし、顧客が買戻しを希望する場合には、買戻し日まで債権譲渡の通知を留保していた。
Yは、無登録で貸金業を営んだとして貸金業法違反により、また、法定の利息をはるかに超える高額の利息を受領(法定制限利息では11万円余であるところ、113万円余を受領)したとして出資法違反により起訴された。
これに対し、Yは、本件給料ファクタリングは債権譲渡であり、その対価としての金銭交付は貸金業法、出資法の「貸付け」には当たらないと主張した。
<最高裁決定の概要>
最高裁は、Yの弁護人の上告趣意書はいずれも刑訴法405条の上告理由に当たらないとしつつ、その所論に鑑みて、職権で以下のとおり述べて、貸金業違反、出資法違反の各罪を認めた原審判決を維持した。
「4 そこで検討すると、本件取引で譲渡されたのは賃金債権であるところ、労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、その賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない(最高裁昭和40年(オ)第527号同43年3月12日第三小法廷判決・民集22巻3号562頁参照)ことから、被告人は、実際には、債権を買い戻させることなどにより顧客から資金を回収するほかなかったものと認められる。
また、顧客は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、債権譲渡通知の留保を希望していたものであり、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったものと認められる。
そうすると、本件取引に基づく金銭の交付は、それが、形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、また、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたとしても、実質的には、被告人と顧客の二者間における、返済合意がある金銭の交付と同様の機能を有するものと認められる。
5 このような事情の下では、本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たる。」(下線は磯村が追加)
なお、本決定が引用する最判昭和43年3月12日民集22巻3号562頁は、退職金についても、通常の賃金と同様に労基法24条1項の趣旨に従い、退職金債権を譲り受けた者が使用者に対して支払請求をすることはできないとしたものである。
<コメント>
刑事事件であるが、貸金業法、出資法違反として、民事的にも重要な決定である。最高裁は、本件の事情の下で「貸付け」に当たるとしているが、給料債権について労基法24条1項の適用により、債権の譲受人が支払請求をすることができないことが重要な根拠とされており、給料債権以外の債権について同様の仕組みで債権譲渡がなされる場合に、貸金業法や出資法、利息制限法との関係がどうなるかについては、本決定の射程は及ばないと考えられる。
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